御書研鑚の集い 御書研鑽資料

南条時光御息文 11　上野殿御書

【上野殿御書　建治元年八月一八日　五四歳】
上野殿御書　建治元年８月１８日　５４歳御作


【態〔わざ〕と御使ひ有り難く候。】
わざわざ、御使いを寄越〔よこ〕されたことを有難く存じます。

【夫〔それ〕については屋形〔やかた〕造〔づく〕りの由】
御使いの報告では、新たに館を新築されるとのこと、

【目出度〔めでた〕くこそ候へ。】
実にめでたいことです。

【何〔いつ〕か参り候ひて移徙〔わたまし〕申し候はゞや。】
いつか御会いして、引っ越しの御祝をしたいと思います。

【一、棟札〔むなふだ〕の事承り候。】
一つに新築の棟札〔むなふだ〕の事については、承知致しました。

【書き候ひて此の伯耆〔ほうき〕公に進〔まい〕らせ候。】
書いて、この日興に託しております。

【此の経文は須達〔すだつ〕長者
この経文には、次のような、いわれがあります。須達〔すだつ〕長者は、

【祇園精舎〔ぎおんしょうじゃ〕を造りき。】
祇園精舎〔ぎおんしょうじゃ〕を造った人です。

【然るに何〔いか〕なる因縁〔いんねん〕にやよりけん、】
ところが、どういう因縁によるのでしょうか、

【須達長者七度まで火災にあひ候時、】
須達〔すだつ〕長者は、七度も火災にあったのです。

【長者此の由を仏に問ひ奉る。】
その時、須達〔すだつ〕長者が、そのわけを仏に質問すると、

【仏答へて曰はく、汝が眷属〔けんぞく〕貪欲深き故に】
仏は、それに答えて、あなたの周りの者は、欲が深く、

【此の火災の難起こるなり。】
その為に何度も火災が起こるのであると言われました。

【長者申さく、さていかん〔如何〕して此の火災の難を】
長者は、それに、どうすれば、この火災の難を

【ふせ〔防〕ぎ申すべきや。】
防ぐことができるでしょうかと尋ねました。

【仏の給〔たま〕はく、辰巳〔たつみ〕の方より瑞相あるべし。】
仏は、南東の方より、瑞相があるであろう。

【汝精進して彼の方に向かへ。】
あなたは、ひたすら、仏道修行に身を置き、その方向へ行きなさい。

【彼方より光さゝば鬼神三人来たりて云はん。】
その方向から、光が差したら、鬼神が三人やって来て、このように言うでしょう。

【南海に鳥あり、鳴忿〔めいふん〕と名づく。】
それは、南海に鳴忿〔めいふん〕と言う名前の鳥がいて、

【此の鳥の住処に火災なし。】
この鳥の住む場所には、火災がないのです。

【又此の鳥一つの文〔もん〕を唱ふべし。】
また、この鳥は、一つの言葉を唱えるのです。

【其の文に云はく「聖主天中天〔しょうじゅてんじゅうてん〕、】
その文章は、法華経化城喩品の「諸聖の主で天中の天よ、

【迦陵頻伽声〔かりょうびんがしょう〕、】
迦陵頻伽鳥〔かりょうびんが〕の声をもって

【哀愍衆生者〔あいみんしゅじょうしゃ〕、】
衆生を哀れみ情けをかけられる者よ、

【我等今敬礼〔がとうこんきょうらい〕」云云。】
我等は今、尊敬礼拝する」と言うものです。

【此の文を唱へんには、必ず三十万里が内には火災をこらじと、】
この言葉を唱えるときには、絶対に三十万里の内に火災は、起こらない。

【此の三人の鬼神かくの如く告ぐべきなり云云。】
この三人の鬼神は、このように告げるであろうと仰せられました。

【須達、仏の仰せの如くせしかば少しもちがはず候ひき。】
須達〔すだつ〕長者が仏の言った通りにすると、その通りになったのです。

【其の後火災なきと見えて候。】
その後、火災は、起きなかったと記されています。

【これに依りて滅後末代にいたるまで、】
この事によって釈尊滅後、末代に到るまで、

【此の経文を書きて火災をやめ候。今以てかくの如くなるべく候。】
この経文を書いて火災を防止したのです。今回も、これと同様になるでしょう。

【返す返す信じ給ふべき経文なり。】
くれぐれも信ずべき経文です。

【是は法華経の第三の巻化城喩〔けじょうゆ〕品に説かれて候。】
これは、法華経の第三巻の化城喩品に説かれています。

【委〔くわ〕しくは此の御房に申し含めて候。恐々謹言。】
詳しくは、この日興に言っております。恐れながら謹んで申し上げます。

【八月十八日　　　日蓮花押】
８月１８日　　　日蓮花押

【上野殿御返事】
上野殿御返事