御書研鑚の集い 御書研鑽資料
南条時光御息文 29 上野殿御返事
【上野殿御返事 弘安二年八月八日 五八歳】上野殿御返事 弘安2年8月8日 58歳御作
【鵞目〔がもく〕一貫・しお一〔ひと〕たわら・】
銭一貫文、塩一俵、
【蹲鴟〔いものかしら〕一俵・はじか〔薑〕み少々、】
さといも一俵、生姜〔しょうが〕少々を、
【使者〔つかい〕をもて送り給〔た〕び了んぬ。】
使いの者を立てられて送って頂きました。
【あつきには水を財〔たから〕とす。さむきには火を財とす。】
暑い時には、水が大事になり、寒い時には、火が大事になります。
【けかち〔飢渇〕には米を財とす。いくさ〔軍〕には兵杖を財とす。】
飢饉には、米が大事であり、戦いには、武器が大事になるのです。
【海には船を財とす。山には馬をたからとす。】
海では、船が大事であり、山では馬が大事であり、
【武蔵・下総には石を財とす。】
武蔵や下総では、石材が大事なのです。
【此の山中にはいゑのいも、海のしほを財とし候ぞ。】
これらと同じように、この身延の山中では、芋や海の塩が大事なのです。
【竹の子・木の子等候へども、】
筍〔たけのこ〕や茸〔きのこ〕は、沢山あっても、
【しほなければそのあぢ〔味〕わひつち〔土〕のごとし。】
塩がなければ、その味は、土をかむように味気ないものなのです。
【又金〔こがね〕と申すもの国王も財とし、民も財とす。】
また、金〔こがね〕と言うものは、国王も大事にし、民衆も大事にします。
【たとへば米のごとし。一切衆生のいのちなり。】
たとえば、命をつなぐ米のようなものであり、一切衆生の命なのです。
【ぜに〔銭〕又かくのごとし。漢土〔もろこし〕に銅山と申す山あり。】
銭も、また同じです。中国に銅が取るれ山があって、
【彼の山よりいでて候ぜに〔銭〕なれば、】
この銅山で生産された銭は、
【一文も千文もみな三千里の海をわたりて来たるものなり。】
一文の銭であっても、すべて三千里の海を渡って日本に来るのです。
【万人皆たま〔珠〕とおもへり。】
万人が、これを珠〔たま〕と同じと思って大事にしています。
【此を法華経にまいらせさせ給ふ。】
あなたは、この銭を法華経に供養されたのです。
【釈まなん〔摩男〕と申せし人のたな〔掌〕心には石変じて珠となる。】
昔、釈摩男〔しゃくまなん〕と言う人は、手に取った石を珠〔たま〕に変え、
【金〔こん〕ぞく〔粟〕王は沙〔いさご〕を金〔こがね〕となせり。】
金粟王〔こんぞくおう〕は、砂を金にしたのです。
【法華経は草木を仏となし給ふ。】
法華経は、心のない草木を仏とするのです。
【いわうや心あらん人をや。】
まして、心ある人間は、なおさらのことです。
【法華経は焼種〔しょうしゅ〕の二乗を仏となし給ふ。】
また、法華経は、仏の種を焼いてしまった声聞、縁覚の二乗さえ仏にするのです。
【いわうや生種〔しょうしゅ〕の人をや。】
ましてや、生きた仏の種を持つ人は、なおさらのことなのです。
【法華経は一闡提〔いっせんだい〕を仏となし給ふ。】
法華経は、不信の一闡提〔いっせんだい〕をも仏にするのです。
【いわうや信ずるものをや。事々つくしがたく候。】
ましてや、法華経を信ずる者は、なおさらのことです。
【又々申すべし。】
そのほか申し上げたいことがありますが、また、後日に申し上げましょう。
【恐々謹言。】
恐れながら謹んで申し上げます。
【八月八日 日蓮花押】
8月8日 日蓮花押
【上野殿御返事】
上野殿御返事